私が最初にその違和感に気付いたのは数年前。お昼に料理番組を見たときです。女性の料理研究家が手順を説明するときに放った…
「ここでフライパンのたまごに水を加えてあげます」
ぞわ…。
言葉は移り変わるもの。適応しなきゃいけないなぁ、と思いつつ、なかなか慣れないライターの日本語のぼやき。めでたく第1回が始まります。
本来の「してあげる」には軽い敬意が含まれる
「棚の荷物、取ってあげるね」などに使われる「~してあげる」の「あげる」には、本来「上から目線」や「人を見下す」の意味はありません。
Macに収録された「スーパー大辞林」(国語辞典)から引用します。
あ・げる
補助動詞動詞の連用形に接続助詞「て」の付いた形に付き,主語で表されるサービスの送り手が,他人のためにすることを,送り手の側から表す。(普通は仮名書き)《上》「友達に本を貸して―げた」「お宅まで送って―げましょう」〔「…てやる」と異なり,受け手に対する軽い敬意がこめられている。目上に対しては「さしあげる」を用いるのが一般的〕
ということで、「~してあげる」は敬意をこめた言い方です。それなのに「なに上から目線で言っとんじゃ、ああん?」なんて言われた日には、こちらとしては「ええっ」と面食らうわけです。「~してやる」なら上から目線に受け取られても仕方ないと思いますけども。
もしかしたら、こんな会話を交わされる日がくるのでしょうか…。
「今日は鈴木くんが休みだから、家が近い人、このプリントを届けてあげてね」
「せんせー、上から目線はよくないとおもいまーす」
「…鈴木くんにプリントを届けてさしあげてね」
ぐほあッ!(気持ち悪さに悶絶)
なぜ「してあげる」は「上から目線」と思われるようになったのか
「してあげる」の本来の意味を知ったあなたはもう間違わないでしょう。おめでとうございます^^
さて、次に気になるのは「なぜ、本来とは逆の意味である『上から目線』に思われたのか」です。私は日本語の研究家ではないので自分の予想で書いちゃいますけど、こんな流れで意味が変化したのではないでしょうか。
「してあげる」は敬意をこめた言い方
↓
やさしい・丁寧なイメージをもつ言葉として、多くの人が使い始めた
↓
対象が人以外、いきもの以外でも使い始めた
↓
力の弱いものに対して使うイメージが出てきた
↓
見下すイメージが出てきた
いかがでしょう? 裏付けや正しい変化の流れは研究家や大学教授のような頭の良い方にお任せします。
「あげる」は色んな意味をもつ
冒頭の料理研究家の話で私が抱いた違和感、上の話を踏まえればなんのことか分かると思います。
「たまごに水を加えてあげます」
私はこの言葉を聞いたとき、「な、なぬ…この人はたまごに敬意を…!?」と思っちゃったわけです。それほど自分の立場を下に置かなくても…と、考えさせられる言葉でした。
しかし、この件については私が間違っている可能性アリです。「あげる」にはこんな意味もあります。
あ・げる
「与える」「やる」の丁寧な言い方。《上》「この本,あなたに―げます」「ほうびを―げる」「子供におやつを―げる」「鳥にえさを―げる」
「スーパー大辞林」から引用
つまり、料理研究家は「たまごに水を加えてやります」の丁寧な言い方をしただけなのでしょう。
よかった、たまごより身分が低い料理研究家なんていなかったんだ!
しかし、「あげる」の別の意味を見ると…
あ・げる
「与える」の謙譲語。「プレゼントを―げる」
謙譲語なら、相手より自分を下げて言う言い方だから…んん!? どっちだ!?
料理研究家の謎は深まりました…。
(もう数年前は、「加えてあげます」や「加えてやります」ではなく、単に「加えます」と言ってた気がします)
日本語ムズカシイネ
私が使ったスーパー大辞林には「あげる」の意味が全部で25ありました。多いよ! これなら受け取る側は勘違いしちゃうよ!
とりあえず「してあげる」には敬意がこもっているので、してもらう側は素直に受け止めましょう。敬意がケンカの種になるなんて悲劇ですもんね!